邪馬台国はどこか? - 魏志倭人伝全文を読む Part 1

2026-01-24

魏志倭人伝全文解説 Part 1

この記事では何はともあれ魏志倭人伝の原文を逐次で読んで見る。原文は殆ど暗号文である。自力で復号化処理を行うことで女王の都する所が見えてくるかもしれない。

例: Enigmaの暗号文メッセージ

ドイツ第三帝国の有名な暗号通信機ENIGMA

魏志倭人伝の全文(暗号文) Part 1/3

倭国の位置と「百余国」から「三十国」へ

  • 倭人=倭(日本列島側)の人びと。
  • 帶方=帯方郡(朝鮮半島北西寄りに置かれた魏の郡)。
  • 東南大海之中=帯方郡から見て「東南の大海の中」。海上にある国々という認識。
  • 依山㠀爲國邑=山や島(㠀=島)を頼りにして国(國)や集落(邑)を作る。
  • 舊百餘國=もとは百百余国。小国が多数あった
  • 漢時有朝見者=漢の時代(前漢〜後漢期)に、朝貢して(朝見して)中国側と接触した国があった。
  • 今使譯所通三十國=「いま(魏の時代)」は、使者と通訳のルートが通じる国が三十国。倭国がおそらく一枚岩ではなく、通交可能な勢力圏として把握されている。

帯方郡から倭へ至る道筋(朝鮮半島沿岸ルート)

帯方郡(Daifang Commandery):Wikipediaより
21世紀現在の北朝鮮の平壌周辺
  • 從郡至=「郡から(倭へ)至るには」。ここから行程説明が始まる。
  • 循海岸=海岸線に沿って進む。
  • 水行=船で行く(航海)。
  • 歷韓國=韓国(朝鮮半島南部の諸国)を経由する。
  • 乍南乍東=南へ行ったり東へ行ったり、海岸線の屈曲に沿うニュアンス。
  • 到其北岸狗邪韓国=その北岸にある「狗邪韓国」へ着く、という流れ。
  • 七千餘里=距離表現。中国の「里」は時代で差があるが、帯方郡から半島南端部付近までが相当遠い。
  • 始度一海=ここから「海を渡る」フェーズに入る。
  • 一海千餘里=最初の海渡りは千余里。
  • 至對馬國=対馬国に至る。
  • 其大…=官職説明へ接続。

対馬国の官職・地形・生活

  • 大官曰卑狗=長官の名(官名)が卑狗。固有名ではなく職名表現の可能性が高い。
  • 副曰卑奴母離=副官が卑奴母離。
  • 所居絶㠀=住まいは「絶島」=海で隔てられた島。
  • 方可四百餘=「方(四方)」が四百余里ほど、という島の規模感。
  • 土地山險=険しい山地。
  • 多深林=深い森が多い。
  • 道路如禽鹿徑=道は鳥や鹿の通る獣道のよう。交通の厳しさを強調。
  • 有千餘戸=人口規模は千余戸。
  • 無良田=良い田がない。
  • 食海物自活=海産物で自活。
  • 乗船南北市糴=船で南北に交易し、穀物などを買い入れる(市糴=買い集める)。
  • 又南渡一海千…=次の島(壱岐方面)へ。

一支国(壱岐)への移動と特徴

  • 名曰瀚海=この海の名を「瀚海」と呼ぶ、と記録。現在の名称は玄界(灘)。
  • 至一大國=一つの大国に着く。文脈上、一支国。
  • 官亦曰卑狗/副曰卑奴母離 =対馬と同型の官名体系を示す。
  • 方可三百里=四方三百里ほど。対馬よりやや小さいイメージにも読める。
  • 多竹木叢林=竹や木が茂る。
  • 有三千許家=三千余家。対馬より人口が多い。
  • 差有田地=多少の耕地はある。
  • 耕田猶不足食=耕しても食糧が足りない。
  • 亦南北市糴=やはり交易に依存。
  • 又渡一海=さらに海を渡る(九州側へ)。

末盧国(九州北部沿岸)と漁撈

  • 末盧國=九州側の入口として語られやすい国名。
  • 有四千餘戸=四千余戸。
  • 濱山海居=海辺で、山と海に沿って住む。
  • 草木茂盛=草木が繁茂。
  • 行不見前人=茂みが深く、前を行く人が見えないほど。
  • 好捕魚鰒=魚やアワビをよく捕る。
  • 水無深淺皆沈没取之=水深に関係なく潜って採る。潜水漁撈の描写。
  • 東南=次は陸行で東南へ。

伊都国(使者の常駐地)へ

  • 陸行五百里=陸路で五百里。
  • 到伊都國=伊都国に着く。
  • 官曰爾支/副曰泄謨觚=伊都国の官名。対馬・壱岐と異なる体系なのが興味深い。
  • 柄…=官職名が続く。
  • 柄渠觚=さらに別の官名(官職階層が複数あることを示す)。
  • 有千餘戸=千余戸。
  • 丗有王=「世々王あり」=代々の王がいる。
  • 皆統屬女王國=ただし女王国に統属している。
  • 郡使往來=帯方郡の使者が往来する。
  • 常所駐=使者が常に駐在する場所。伊都国の外交的重要性がここで確定する。
  • 東南至奴國百里=東南へ百里で奴国。
  • 官曰兕馬觚=奴国の官名。
  • 副曰卑奴母離=奴国でも副官名として卑奴母離。広域に共通する「副官称号」の可能性。
  • 有二萬餘戸=二万余戸。大きな国。
  • 東行至不彌國百里=東へ百里、不彌国。
  • 官曰多模=官名が多模。
  • 副曰卑奴母離=ここでも副官名が共通。
  • 有千餘家=不彌国は千余家。
  • 南至投馬國水行二十日=南の投馬国へは水行二十日。ここは後の比定議論の焦点(「水行二十日」の重さ)。

投馬国と邪馬壹国(女王の都)

投馬国

  • 投馬國 官曰彌彌=投馬国の官名が彌彌。
  • 副曰彌彌那利=副官名。
  • 可五萬餘戸=五万余戸級。巨大勢力。

女王の都する所

  • 南至邪馬馬壹國=南に行くと邪馬台国(後世の表記)に比されるが、ここでは「壹」。
  • 女王之所都=女王が都する場所。女王国の中心。
  • 水行十日陸行一月=到達経路が「水十日+陸一月」と二段階で書かれる。
  • 官有伊…=官職へ。
  • 官有伊支馬=最高位の官名。
  • 次曰彌馬升/次曰彌馬獲支/次曰奴佳鞮=次官が列記される。
  • ここは、邪馬壹国が単なる小国ではなく、官制が整い階層がある「中心政権」であることを示す。
  • 可七萬餘戸=七万余戸。最大級。
  • 自女王國以北女王国より北側については
  • 其戸數道里可得略載=戸数や道里を概略載せられる。

旁国(周辺国)列挙と女王境界の終点

  • 其餘旁國=その他の周辺国。
  • 遠絶不可得詳=遠く隔絶して詳細が分からない。
  • 次有…=国名列挙が続く(ここは「リスト」)。
  • ここからは周辺国名の連続列挙。
  • 国名の同定は諸説ある。この段は「女王圏に多くの国が連なる」という事実が主。
  • 同上。列挙が続く。
  • 「呼」「蘇」など音写の揺れもあり、後代の地名に短絡しない慎重さが必要。
  • 「華奴蘇奴國」のように複合的な音写も混ざる。
  • 「鬼」の字が含まれる国名が複数出るが、蔑称というより音写の可能性もある。
  • 「邪馬国」という表記がここにも出るのが特徴(壹国との関係をどう見るかは論点になりうる)。
  • 列挙が続く。
  • 「臣」など政治的語彙が含まれる点は興味深いが、まずは無難に音写として読むべし。鳥奴は鳥栖のように思えなくもない。
  • 次有奴國=最後に奴国が再登場するように見えるが、同名別国・表記揺れ等の可能性もある。
  • 此女王境界所盡=ここが女王の境界の尽きる所。
  • 其南有狗奴國=その南に狗奴国がある。
  • 女王圏の「外側」が明示される重要行。

女王国のライバル「狗古智卑狗」

  • 男子爲王=狗奴国は男王。女王国と対照。
  • 其官有狗古智卑狗=官名が記される。
  • 不屬女王=女王に属さない。対立・別勢力の核心。

女王国の距離等

  • 自郡至女王國=帯方郡から女王国までの距離総括へ。
  • 萬二千餘里=郡から女王国まで一万二千余里。
  • 男子無大小皆黥面文身=男は身分を問わず黥面・文身(顔や身体に入墨)。
  • 自古以來=古来よりそうであった、という強い言い方。

倭人の自己称号と入墨の由来や風俗説明

  • 其使詣中國=中国へ行く使者。
  • 皆自穪大夫=自ら「大夫」と称する(外交上の格付け表現)。
  • 夏后少康之子封於會…=中国古代伝承を引き、会稽方面の海民由来を説明する伏線。
  • 斷髪文身=髪を断ち、入墨する。
  • 以避蛟龍之害=水中の害(蛟龍)を避けるため、という説明。
  • 今倭水人好沈没=倭の海人は潜水を好む。
  • 捕魚蛤=魚やハマグリなどを採る。
  • 文身亦以厭大魚水禽=入墨は大魚・水鳥を退ける呪的意味もある、と理解されている。
  • 後稍以爲飾=のちには装飾化する。
  • 諸國文…=国ごとの差へ。
  • 各異=国ごとに異なる。
  • 或左或右=左に入れる/右に入れる。
  • 或大或小=大きい/小さい。
  • 尊卑有差=身分差がある(完全平等ではない)。
  • 計其道里=次は位置比定(会稽東治の東)へ。
  • 當在會稽東治之東=会稽の東治のさらに東に当たるはず、という中国側の地理感覚での定位。
  • 其風俗不淫=風俗は淫らではない(道徳評価)。
  • 男子皆露紒=男は髻(もとどり)を露出させる髪形。

衣服・髪形・農産・家畜

  • 木緜招頭=木綿(ここは植物繊維や布を指す広い語)で頭を束ねる。
  • 其衣横幅=布を横に取ったような衣。
  • 但結束相連略無縫=縫わずに結んで繋ぐ。衣服の簡素さ。
  • 婦人被…=女性の髪へ。
  • 婦人被髪屈紒=女は髪を垂らし、髻を曲げる。
  • 作衣如單被=衣は単衣や被(掛け布)のよう。
  • 穿其中央貫頭衣之=中央に穴を開け頭を通す(貫頭衣)。
  • 種禾稻=稲作(禾・稲)を作る。
  • 紵麻=麻・苧麻など繊維作物。
  • 蠺桑=養蚕と桑。
  • 緝績=糸を績む。
  • 出細紵縑緜=細い麻布・絹・綿を産出。
  • 其地無牛馬虎豹羊鵲=牛馬・虎豹・羊・カササギなどがいない(少なくとも「見えない」と認識される)。家畜事情の記録として重要。
  • 兵用矛楯=武器は矛と盾。
  • 木弓=木製の弓。
  • 短下長上=下が短く上が長い(日本古来の非対称弓の描写)。
  • 竹箭=竹の矢。
  • 或鐵鏃=鉄の鏃もある。
  • 或骨鏃=骨の鏃もある(鉄器と骨器が併存)。
  • 所有無與擔耳朱崖同=(中国南方の)儋耳・朱崖と同じものは無い、という比較。異文化として位置づける文脈。
  • 倭地温暖=倭は温暖。
  • 冬夏食生=冬夏を問わず生菜を食べる(食習慣の特徴として書いている、あるいは野菜が冬でも栽培出来る温暖な気候)。

住居・身体装飾・食器・喪葬

  • 皆徒跣=裸足。
  • 有屋室=家屋がある(穴居ではなく住居があることを明言)。
  • 父母兄弟臥息異處=親兄弟でも寝所が別。生活空間の分離。
  • 以朱丹塗=朱丹(赤色顔料)で塗るへ続く。
  • 塗其身體=身体に朱丹を塗る。
  • 如中國用粉也=中国で白粉を使うようなもの、と比較。
  • 食飲用籩豆=籩豆(高坏・器台系の礼器)を用いる。食器文化の記録。
  • 手食=手で食べる(箸文化がまだ前提でないことを示す)。
  • 其死有…=葬送へ。
  • 有棺無槨=棺はあるが槨(棺を囲う外棺・外郭)がない。
  • 封土作冢=土を盛って塚(冢)を作る。
  • 始死停喪十餘日=死後しばらく(十余日)停喪する。
  • 當時不食肉=喪の期間は肉を食べない。
  • 喪主哭泣=喪主は泣く。
  • 他人就歌舞飲酒=周囲の人は歌舞し酒を飲む(弔いが“儀礼的な宴”を伴うことがある)。
  • 已葬擧家詣水中澡=葬った後、家族そろって水に行き、身を清める。
  • 澡浴以如練沐=練(さらし布)のように、清めの沐浴をする。禊的な観念が読み取れる。
  • 其行來渡海詣中國=海を渡って中国へ行く時は(往来のとき)。
  • 恒使一人不梳=常に一人、髪を梳かない者を立てる(旅の安全祈願・忌み役のような存在を示唆)。

この記事(Part 1)の結び

魏志倭人伝は、地理ルートだけでなく、

  • 小国連合の構造(百余国→三十国)
  • 伊都国の外交拠点性(郡使の常駐)
  • 投馬国・邪馬壹国の規模感(五万・七万余戸)
  • 狗奴国という対立勢力
  • 入墨・服制・農耕・武器・葬送・禊の具体描写

を、短い文章の中に高密度で詰め込んでいる。そして大事なのは、「どこにあったはずだ」という結論から読むのではなく、原文が先に示している輪郭に、こちらが素直に理論を合わせるという考え方である。原文解読、自力復号化処理は、思いつきの議論よりも強い。

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